福岡高等裁判所 昭和29年(ラ)34号 決定 1955年3月23日
再抗告人 亀甲証真
主文
本件再抗告を棄却する。
理由
本件抗告理由は別紙<省略>添付の再抗告状記載の「再抗告の理由」及びこれに引用された抗告状記載の「抗告の原因」並びに「再抗告事由附加陳述書」記載のとおりである。
よつて按ずるに、本件公示送達は民法第九十七条ノ二の規定によつてなされたものであるが、同条は公示送達の手続に関しその第二項において「前項の公示は公示送達に関する民事訴訟法の規定に従い裁判所の掲示場に掲示し、且その掲示ありたることを官報及び新聞紙に少くとも一回掲載してこれを為す、但裁判所相当と認むるときは官報及び新聞紙の掲載に代え市役所、町村役場又は之に準ずべき施設の掲示場に掲示すべきことを命ずることを得」と規定するほかにはその効力、管轄、費用等に関して第三項乃至第五項に特別規定を置くのみであつて、その他には何等の規定を設けていないから、本条による公示送達については右の外、すべて民事訴訟法の規定に従うべきか否かが問題となるが、本条による公示送達は送達を受くべき者の住所を知ること能わざる場合における送達の方法たる点において民事訴訟法による公示送達と共通の性質を有するのみならず、民法には、この方法による送達を何人が担当し実施するか、送達すべき書類は何人が保管するか、外国においてなすべき公示送達は如何なる手続によるべきか、又その効果は如何、送達報告書を作成しなければならぬか否か、又その手続は如何等公示送達の実施上不可欠の規定にして民事訴訟法には明文ある事項に関しても何等の規定を設けず又非訟事件手続法にも、これに関する規定なく単に前述のとおり民事訴訟法の公示送達と異る取扱をなすべき点につき本条第二項以下に若干の規定を設けているのみである点から考えると、特に民法に準用規定は置かなくとも、前示特別規定ある場合を除くの外、意思表示の公示送達に関する一切の手続については民事訴訟法を準用する趣旨であることを窺うことが出来る。従つて本条による公示送達に対する不服申立の許否についても民事訴訟法を準用して考えるのを相当とするところ、我が民事訴訟法には公示送達を許す裁判に対する不服申立を認めた規定がないから、これに対する不服申立は許されないものと解するのを相当とする。もつとも、斯く解するときは、公示送達の要件が具備せざるに拘らずなされた不当なる公示送達により第三者が不利益を蒙る場合において第三者がこの手続において救済を求められないとの懸念を生ずるかも知れないが、本条第三項但書はその場合に備えて「表意者が相手方を知らず又はその所在を知らざるにつき過失ありたるときは、到達の効力を生ぜず」と規定して居り意思表示者に故意過失ありたる場合は第三者は右の但書によつて救済せられるから、このことの故に民事訴訟法の規定の準用を否定すべきではない。
然らば爾余の点につき判断するまでもなく、本件公示送達の許可決定に対する抗告申立を却下した原決定は正当であり、本件再抗告はその理由がないのでこれを棄却すべきものである。
よつて主文のとおり決定する。
(裁判官 野田三夫 中村平四郎 天野清治)